Synopsis

たらこふりかけのおにぎりをこよなく愛する男には、 ひとつだけ譲れない信仰がある。 素手で、水と塩を掌に含ませて握る「手塩にぎり」。 ラップ越しの“衛生おにぎり”では決して得られない、 微生物と体温が織りなす静かな熟成。 それは、ぬか床と同じく、 握った者の「手の気候」が宿る儀式だった。 握ったおにぎりは、アルミホイルに包まれて眠る。 水蒸気と熱を閉じ込め、 男の常在菌がつくる穏やかな生態系が、 銀の膜の内側でゆっくりと育っていく。 明日、この“選ばれしおにぎり”を、 想いを寄せる女性に渡すつもりだった。 だがその夜、男の指の付け根に、 甘く、骨の奥に染み込むような疼きが走る。 まだ痛みとは呼べない。 だが、それは確かに忍び寄る気配だった。

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Kakuyomu
Kakuyomu05/14/2026
  • Current銀膜の供物