Synopsis
婚約して三年。
公爵令嬢クラリスは、王太子ディオンの隣に立つために全てを捧げてきた。
外交演説の誤りを夜明け前に修正し、社交界に広がりかけた悪評を一人で摘み、高熱の夜には廊下で夜明けまで待ち続けた。
誰にも言わなかった。
言う必要もないと、ずっと思っていたから。
しかし王宮舞踏会の夜、殿下はクラリスの前に立ち、静かに告げた。
「あなたとは、愛が感じられない。心が通い合っていないのです」
——三年間、全力で向き合ってきた相手の言葉がそれだった。
婚約破棄を言い渡されたその瞬間、世界に「鎖」が現れた。
感情の貸し借りを可視化する、光の鎖。
受け取ったのに返さなかった信頼、努力、支えが「負債」として鎖になり、時間とともに利息がついて膨れ上がる——その世界の理が、突然その場にいる全員の目に映し出されたのだ。
殿下の身体からは、無数の鎖がクラリスへ向かって伸びていた。
三年分の、重く太い鎖が。
対してクラリスから殿下へ伸びる鎖は、細い一本だけ。
その差が全てを物語っていた。
「では殿下——精算をお願いいたします」
クラリスは静かに、しかし確かな声で宣言する。
感情で返すことも、財で返すことも、誰かに肩代わりさせることもできる精算の儀。
拒否は許されない。
鎖は締まり、殿下から「人の上に立つ資格」が少しずつ剥がれていく。
これは派手な復讐ではない。
ただ——与え続けた三年間が、正しく清算される夜の話。
自分の価値を知らなかった一人の令嬢が、鎖の光の中でようやく気づく。
私は与えるだけの人間ではない。正しく評価されるべき存在だったのだと。
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