Synopsis
「変な訛りで喋る子」と笑われて育った宿屋娘リーゼ。獣人客の唸りや耳の角度を自然に意味として聞き取れることを、本人も含め誰も価値だと思っていなかった。
人間国と獣人連合の和平交渉、三日目。料理に苛立つ狼王の唸りを、リーゼだけが訳していた──「肉に火が通りすぎている」「故郷の塩漬けが欲しい」。厨房を借りて宿屋仕込みの獣人向け料理を出すと、狼王は皿が空くまで無言で食らい、条約文に一行が加えられた。「リーゼを国賓通訳として招く」と。
その日の通訳記録が、各国の王宮へ回覧される。通訳者:宿屋の娘リーゼ──公文書のたった一文を読んだ獅子王、虎王、熊王、狐王が、次々に動き始めた。親善大使、療養食、契約書の細則。名目だけは礼儀正しく、実態は五か国総出の奪い合い。
強面の王たちは、彼女の前でだけ「腹減った」「そばにいろ」「妻にしたい」と本音を漏らす。本人は出張料理人のつもりで、毎月違う城の厨房に立っているだけ。笑われた訛りと宿屋料理が、五か国の王の本音をほどく溺愛外交コメディ。
回覧される通訳記録には、今日もこう残される──通訳者:宿屋の娘リーゼ。
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