Synopsis
清泉県の静かな港町・翠松町。その潮騒の届く場所に、理を重んじ、情を尊ぶ一軒のレストランがある。茶寮酒膳『箸と匙』。そこは、日常と非日常、過去と未来、そして人と人の心が静かに溶け合う「あわい(境界)」の停留所。新人アルバイトとしてこの店に足を踏み入れた沙藤燈子は、今どきの若者には珍しい古風な名を持つ大学生。彼女は、かつてちぎれてしまった自身の運命の糸を辿るように、この港町へと流れ着いた。店主・理人のもと、燈子は日々「もてなし」の深淵に触れていく。一流の職人たちが一皿の料理に注ぎ込むのは、単なる味ではない。それは、失われゆく美学であり、訪れる客たちの傷ついた記憶を再び結び直すための、祈りにも似た誠実さだ。「もてなしの本質とは、お客様と自分、その間に流れる究極の一呼吸を共有すること」美食の香りと琥珀色の光に包まれるなか、燈子は時にその指先で、客たちの心にささやかな「凪(なぎ)」をもたらしていく。古風な名に「継承」の秘密を隠した彼女がナビゲーターとなり、銀色の瞳を持つ店主や美しき隣人たちと共に紡ぎ出す、一皿の奇跡。これは、迷える魂が再び前を向くための、格調高くも温かな再起と救済の物語。
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