Synopsis
コンスタンティノープル。
神と国家が不可分に結びついたこの都市において、「ローマ」は唯一正しい秩序として君臨している。少女カリスティニは、その秩序を支える「予言者」として、修道院に幽閉同然の生活を送っていた。
彼女が用いる秘跡「プロフェティア」は、未来の断片を視る力とされている。逃亡者の潜伏先、反乱の兆候、政敵の動向――彼女の視た未来は必ず現実となり、その結果として多くの人間が拘束され、あるいは歴史から消えていった。それでも教会は告げる。「それはローマを守るためだ」と。
だがある日、カリスティニはこれまでと明らかに異なる光景を視る。
それは未来ではなく、一九〇五年のサンクトペテルブルク――「栄光の日曜日」。本来、流血なく請願が受け入れられたと教えられてきた歴史の起点。しかし彼女の視界では、群衆は銃撃され、広場は血に染まっていた。しかもその場には、依頼人である青年セルゲーエフの姿が存在していた。
正史と矛盾する過去にカリスティニは困惑する。
未来を見るはずの力が、なぜ「あり得ない歴史」を映し出すのか。混乱の中で現実へ戻った直後、カリスティニは爆破事件に巻き込まれるが、そこでかつての予言者を名乗る男と遭遇する。男は告げる――「予言者が見ているのは未来ではない。歪められた歴史だ」と。
やがて明かされる事実。プロフェティアは未来を予見する力ではなく、世界の分岐点へと遡る力であり、その起点こそが一九〇五年だった。さらに、予言者はその深部に触れることで正気を失い、次の「器」へと継承されていく存在でもあった。
後継候補として現れたセルゲーエフ、前任者の狂気、そして教会が語ろうとしない歴史の空白。すべてが収束する先にあるのは、「正史」と呼ばれてきた世界そのものへの疑念である。
未来とは何か。歴史とは誰が決めるものなのか。
カリスティニはやがて選択を迫られる――世界の起点へ戻り、分岐そのものを変えるのか、それとも与えられた秩序の中で生き続けるのか。
「一九〇五年に戻れ。まだ選べる」
その言葉の意味を知るとき、彼女の見る世界は決定的に変わる。
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