Synopsis
川の西岸で小さな店を営む時計修理職人の蘇成(そせい)。増水した川が柳の枝を揺らす春の夕暮れ、彼は対岸の紅杏の林に佇む一人の女性を見つける。それは、対岸の屋敷で香を調ずる風流人の娘、**林婉(りんえん)**であった。
かつてより風に乗って届く彼女の家の香りに、密かな親しみを感じていた蘇成。彼は小舟を出し、川の真ん中で彼女と対峙する。婉は父が仕立てた「冷香丸(れいこうがん)」という香を、日々繊細な作業に没頭する蘇成への労いとして贈る。
西岸へと戻った蘇成は、その晩、部屋の灯りをつけぬまま、闇の中に漂う幽かな香りと彼女の青磁色の面影に身を委ねる。川という境界線を越えて届けられた香りは、孤独な職人の心へと静かに溶けていくのだった。
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