Synopsis
「弟くんに、彼女なんて、まだ早いよね?」
義姉のカンガルー獣人、カナン。
親の再婚で姉弟になって、五年。両親が仕事で家を空けがちな俺の家で、実質的に母親代わりとして、全てをこなしてくれた。
朝ご飯、お弁当、洗濯、掃除、学校行事の書類記入。全部、完璧。
そして——俺に対しては、全肯定、全受容、全甘やかし。
「宿題、手伝って」「いいよ」
「友達と映画行きたいからお金貸して」「いいよ、あげる」
「深夜にカップ麺食べたい」「いいよ、私も一緒に」
唯一、聞いてくれないお願いは「スキンシップ減らしてくれ」だけ。
後ろから抱きついてくる。尻尾を腰に巻きつけてくる。膝の上に乗せて|撫《な》で|回《まわ》してくる。お腹の袋の中に入れて大学へ連れて行きたいと言い出す。
——ちなみに、カンガルー獣人の袋は、本来、赤ちゃんを入れるところだ。
そんな激甘な義姉のカナンが、唯一、絶対に、許さないものがあった。
俺に、彼女ができること。
ある日、俺は、クラスの女子から告白を受けた。
一週間、返事を保留にしたものの、こういう話はカナ姉に相談すべきだと思った。いつも通り、全肯定で背中を押してくれるはず——そう、思っていた。
「もし、俺に、彼女ができたら、さ」
そこまで言いかけた瞬間——カナンの目から、ハイライトが、消えた。
「ダメだよ」
「ねえ、弟くん。それ、|私《わたし》じゃ、ダメなの?」
壁に押しつけられ、耳元で|囁《ささや》かれた声は、甘くて、冷たかった。
「彼女なんてね、めんどくさいだけだよ」
「私は、弟くんの言うこと、何でも聞いてあげる」
「一生、養ってあげてもいいんだよ?」
「それなのに——外の女を、選ぶの?」
俺は怖くなって、適当にごまかした。それが数日後、仇になった。
「お姉ちゃんに——嘘、ついたよね?」
五年間、一度も俺を否定しなかった義姉が、初めて、俺を否定した。
「弟くんとお姉ちゃんは、結婚するんだよ?」
「それなのに、他の女の子と付き合おうとするなんて——浮気、だよね?」
「お姉ちゃんが責任を持って、指導しないとね💞」
——カンガルー獣人の袋は、本来、赤ちゃんを入れるところだ。
俺の頭を突っ込む場所では、断じて、ない。
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