Synopsis
異世界転生した日本人の男が主人公。転移門の誤作動による「漂着」であったため、召喚された者たちが持っていたはずの特別な力も、元の世界の持ち物も、何も与えられなかった。
魔王軍との戦争にギルドを通じて動員され、前線を生き延びたが、戦後、ギルドの解散により行き場を失う。廃都に取り残された男は、雨をしのぐために廃転移門の塔へ上る。
塔の中には死体が積み重なっていた。調べるうちに、その多くが転生者であることに気づく。召喚されてこの世界に来た者たちが、戦場に送られ、消耗し、ここへ捨てられていた。男は最後の一体が握っていた手帳を開き、一行だけ読む。「転生したのに何もなかった。ずっと待ってたのに、何も来なかった」。
そこへ老婆が現れ、死体から装備を剥いで売りさばいていることを悪びれずに認める。男が咎めると、老婆は言う——死体たちは英雄の隣に立っていただけで恩賞を受け取った者たちであり、実際に戦って何も得られなかった者たちへの借りを回収しているだけだ、と。
男は老婆の話を聞きながら、三年間ずっと繰り返してきた動作——右の掌を見る癖——を続けていた。召喚された者たちが元の世界の持ち物を手に持ってきたように、自分もいつか何かを与えられると、無意識に確かめ続けてきた動作だった。死体から物を盗らないという一線を守ってきたのも、倫理ではなく、その待つ姿勢を保つための最後の根拠だったと、男はこの瞬間に悟る。
「きっと、そうか」と男は呟き、右の掌から視線を離す。
男は老婆の胸元の魔石のペンダントを引きちぎり、「俺もそうしなければ野垂れ死ぬ身だ」と言い残して塔を下りる。
男は廃転移門をくぐった。約束の入口だったのか、消耗の出口だったのか、最初から何でもなかったのか——答えはどこにもなかった。右の掌の中に、魔石が光っていた。男の行く先に何があるか、この世界のどの物語も、届かなかった。
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