Synopsis
――才覚。それは、人それぞれに備わった独自の感覚や法則のことを指す。
かつては超能力だの神の奇蹟だのと呼ばれていたそれも、今では肌の色や性別のように、人を形作る要素のひとつとして受け入れられている。
今では未来が視えると言っても神様のように崇められはしないし、火に包まれても燃えないからといって魔女扱いされることもない。ただ、そういう才覚を持っている普通の人として見られるだけ。
そして、かつては普通の代表だった“才覚を持たない人間” に今は名前がついている
【才覚忘れ】天から等しく与えられるはずの才覚を、どこかに忘れてきたからというのが名前の由来らしい・
けれど私、奈月狼花は、そんなふうに呼ばれたことが一度もない。
多分、才覚忘れという呼び名そのものが、もう世間から忘れられてしまったのだと思う。
誰もが持っていて当然のものを持っていない。
それは、とても不幸なことに見えるらしい。
実の両親でさえ、才覚忘れはこの世でもっとも不幸な人間だと言っていた。
だけど、私は思う。確かに私は才覚を持っていない。けれど身体は五体満足だし、重い病気や酷いアレルギーがあるわけでもない。
もし才覚なんてものがまだ広く知られていなかった時代に生まれていたなら、私はただの普通の女の子として生きていけたんじゃないか――そんな想像をしてしまうことがある。
もちろん、意味のない想像だ。才覚ありきのこんな世界だけど、私は生きていくしかない。
――才覚を持たない、異常な人間として。
Serialization Info
Web Novel