Synopsis
神が忘れられると消える世界で、一人の少女が消えていく。
少女の名前はウタ。どこにも居場所がなく、名前を呼ばれることにも慣れていなかった彼女は、廃れた山の神殿に巫女として流れ着いた。そこには千年生きながら忘れられかけた神、カナエがいた。
「お前は何者だ」と問われた日から、ウタの世界が変わった。問いかけてくれる声があった。名前を呼んでくれる存在があった。ウタは初めて、ここが居場所だと思った。
やがてウタは古い記録で知る。神の名を自分の内側に封じれば、神は消えずに済む。しかしその代償として、自分の名前が世界から少しずつ失われていく——先代の巫女も、同じ最期を迎えたと。
ウタは一夜考えて、朝になって花に水をやった。
影が薄れた。文字が消えた。名前が届かなくなった。声がかすれた。鏡に映らなくなった。
それでもウタは毎晩、誰にも聞かせない声で呼び続けた。カナエの名前を。そして自分の名前を——まだある、まだある、と確かめながら。
カナエは何も知らない。ウタの影が薄れていくことに気づきながらも、聞かないことを選んだ。彼女が初めて自分のものとして持った選択を、奪いたくなかったから。知らないふりをしながら、ただそばにいた。
「何に感謝すればいいかわからないが」とカナエは言った。ウタは笑った。それが全てだった。
※本作は複数の視点と時系列が交差する構成をとっている。謎めいた語り手と彼らと共に物語は進んでいく。
報われない献身の話ではない。
自分の名前と引き換えに、誰かの輪郭を守り続けた少女が、それでも——ここが居場所だったと言える話だ。
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