Synopsis
『義父母の介護を十年終えた日に、夫から「おつかれー」と離婚届を渡されました。空っぽの人生だと思ったら、幼馴染が迎えに来ました』
『おつかれー、のあとで』
十年分の夜が、まだ指に残っている
呼ばれれば起きて
息を確かめて
名前を呼ばれても、私の名前ではなかった日々
義父の咳を数えた五年
義母の呼吸に合わせて眠った五年
時計はいつも、誰かのために進んでいた
終わった日
静かになるはずだった家で
紙切れ一枚が、私を外に出した
「おつかれー」
その一言で
十年は、なかったことにされた
遺されたものは
減った通帳と
戻らない時間と
履歴書に書けない日々
私の人生って、いったい何だったのだろう
駅前のベンチで
答えを探すふりをして
ただ、座っていた
そのとき
名前を呼ばれた
ずっと昔と同じ声で
振り向くと
懐かしい顔がいて
なにも聞かずに、ただ言った
「来いよ」
強くもなく
優しくもなく
当たり前みたいに
私は、その一言に
はじめて自分を思い出した
空っぽだと思っていた十年は
消えたわけじゃなくて
誰かのために、ちゃんと燃えていた時間だった
「おつかれー」と言った人は
なにも見ていなかっただけで
見ていた人は、ちゃんといた
白馬なんてなくてもいい
特別な奇跡じゃなくてもいい
ただ
私の名前で呼んでくれる人がいる
それだけで
私の人生は、もう一度はじまる
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