Synopsis
私、小野寺日向は、いつも自分の言葉を消していた。
ノートの端に書いては消す。心の中で呟いては飲み込む。そうやって「いい子」のまま、誰にも気づかれずに中学校二年生の春を過ごしてきた。
隣の席の高橋蓮は、そんな私と正反対のひと。授業中に窓の外をぼんやり見ているのに、先生に当てられると正解を言う。みんなと群れないのに、なぜか誰からも嫌われない。
ある放課後、掃除の時間。蓮くんが私の机を動かした拍子に、ノートが床に落ちた。風でぱらぱらとめくれるページ。そこには、消しゴムで消しかけた文字の跡——誰にも言えなかった、本当の私の言葉。
拾い上げた蓮くんは、一瞬だけノートを見つめ、それから何も言わずに机の上に戻した。
ただそれだけ。
なのに次の日から、彼は時々、私に話しかけるようになった。他愛もないことばかり。今日の給食のこと。次のテストのこと。
でもその「何でもない」会話が、私の中で小さく、でも確かに、何かを変えていく。
心の奥でずっと消していた「本当の声」が、彼といるときだけ、そっと形になろうとする——。
これは、自分の言葉をまだ見つけられない少女が、隣の席の少年との何気ない日々の中で、少しずつ「私」になっていく物語。
Serialization Info
Web Novel