Synopsis

『泥の砂糖、天上の餡』

泥の砂糖は
やけに軽くて
舌の上でほどける前に
消えていく

甘いはずなのに
何も残らない

指先にまとわりつくのは
数えられた数字の温度
量られた利益の粒
均された正しさ

それは確かに甘いのに
どこにも帰れない味がする

---

天上の餡は
静かに重い

炊かれる音の奥で
時間がほどけて
記憶がゆっくりと立ち上がる

豆が崩れる瞬間
砂糖が溶ける匂い
手のひらの温度

すべてが混ざって
やっと一つになる

ひと口で
遠い日の台所に戻る

誰にも渡せなかった温もりが
遅れて
胸の奥に落ちてくる

---

泥は
かき混ぜれば
いくらでも形になる

けれど
空には届かない

餡は
崩れても
また練り直せる

ただし
嘘を混ぜた瞬間
二度と元には戻らない

---

味は
言葉よりも先に
真実を知っている

舌は
記憶よりも深く
嘘を拒む

だから

削る
削る
削る

余計なものをすべて落として
最後に残るものだけを
掌に乗せる

---

泥の砂糖で
満たされる人もいる

それでいい

けれど

天上の餡を知ってしまった者は
もう戻れない

甘さではなく
重さで満たされることを
知ってしまったから

---

静かな火の前で
今日もまた
ひとつ

丸める

それは
売るためではなく

嘘を
入れないために

ただそれだけの
かたち

Serialization Info

Web Novel

Service languages
Alphapolis
Alphapolis03/20/2026
  • Current『泥の砂糖、天上の餡』