Synopsis
追放された日、泣かなかった。
五年間の修行も、人を救った記録も、すべて他人の手柄にされた。
それでも泣かなかったのは、悲しみより先に安堵があったからだ。
リーシャが次に手にした仕事は、呪われた辺境伯の嫁。
届いた屋敷で待っていたのは、書斎を埋め尽くす巨大な黒い竜だった。
解呪はできない。
けれど前世で関わった大きな生き物たちの記憶が、彼女の手を動かす。
竜の鱗を磨き、体温を管理し、荒れた帳簿を読み解いていく。
竜の辺境伯は不器用だった。
言葉より先に尾が動き、感情を隠すように炎を吐く。
十年間、誰にも触れられなかった鱗の下に、何を抱えているのか。
領地を狙う隣の伯爵が動き始める。
神殿では奪われた功績が、静かに綻びを見せ始める。
契約だけで繋がった二人のもとに、嵐が近づいている。
竜の喉がかすかに鳴る夜、リーシャはまだ気づかない。
薬草の束が誰の手で届けられたのかを。
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