Synopsis

五年間、夫のために結界を作り続けた。 その成果は一つ残らず、会ったこともない愛人の名前で宮廷に届けられていた。 知ったのは偶然だった。 夫の書斎で見つけた十二通の報告書。 開発者の欄に、自分の名前は一文字もない。 怒りで叫ぶことはしなかった。 一ヶ月かけて、静かに準備を整えた。 夫は最後まで何にも気づかなかった。 置き手紙に書いたのは一行だけ。 結界の維持方法は私しか知らない、と。 署名はしなかった。 誰にも見てもらえない地下の実験室で、窓もない部屋で、手が荒れるまで魔力を注いだ五年間。 その全てを詰めた研究ノート三十七冊だけを持って、屋敷を出た。 王都の学院で、匿名の論文を三年間追い続けていた男に出会う。 彼は研究の中身を読んでいた。 設計図の向こうにある状況まで、読んでいた。 けれど善意を信じることが、まだ怖い。 名前を取り戻すために壇上に立つか。 それとも、もう一度名前を隠して静かに生きるか。 その選択を迫られたとき、彼女の足は震えている。 屋敷を出た日の午後、結界の出力計の針がわずかに下がった。 まだ誰も、それに気づいていない。

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Syosetu wo Yomou
Syosetu wo Yomou03/03/2026
  • Current私の研究成果を愛人の手柄にしたあなたへ~白い結婚の終わりに、もう一つだけ置き手紙を~