Synopsis
三十一文字の領収書(レシート)
真夜中のバックミラーに
私は私の 死んだ魚の目を見る
後部座席で 誰かの人生が
酒の匂いと共に 溶けてこぼれる
三十一文字(みそひともじ)の領収書を切り
一円単位で 「自由」を買い占めた
十年間 アクセルを踏み続け
私は 私の時間を 数字に換金した
六畳間の 子供部屋
母の笑い声が 壁をすり抜け
積み上げた三千万円の 冷たい壁に
小さな、ひびを入れる
美紀の香水 同級生のロレックス
誰もが何かを すり減らして生きている
私は何も 減らさぬようにと
心に サイドブレーキを引いた
卑怯な正解だけを 握りしめて
領収書の裏に 孤独を書き写す
「どこへでも行ける」と 通帳は囁くが
私には 行きたい場所など どこにもなかった
リフォームの槌音が 壁紙を剥がし
十年前の 青い落書きが露出する
「ここではないどこかへ」
その願いさえ 利息の中に 埋もれて消えた
地方へ向かう 錆びたバスのハンドル
三千万の守り石は 少しずつ軽くなり
代わりに 生活という名の
静かな痛みが 指先に宿る
グループラインを 無言で去り
私は ただの「一人」になった
ハンドルを握る この震えが
産声なのか 弔鐘(かね)なのかは まだ分からない
夕陽に焼かれた フロントガラス
領収書のない 明日に向かって
私は 初めて
自分の足音を 聞きながら 歩き出す
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