Synopsis

氷室透は「感覚遺品整理士」として十年の経験を持つ。死者の脳から抽出された感覚を整理し、保存か処分かを決める職業だ。ある日、交通事故で亡くなった白雪さゆり(享年二十四)の依頼を受け、彼女の感覚を整理していた透は「雪を見ると安心した」「月を見ると泣いてしまった」「花を見ると誰かを思い出した」という雪月花の感覚に出会う。法律で雪月花の感覚は処分も譲渡も禁じられており、永久保存とされる。だが透は日記に記されたさゆりの思い──雪には母の記憶、月には失恋の痛み、花には生きる願いが宿っていた──を読み、保留にすることへの疑問を抱く。  彼は禁を破り、雪月花の感覚を自らに移植する。すると透の中にさゆりの記憶と感情が流れ込み、次第に自我の境界が曖昧になっていく。雪に安らぎを覚え、月に涙し、花を見ると誰かを思い出す──それが誰の感覚かも判別できぬほどに。やがて透は「感覚は生きている者の中でしか完成しない」と悟り、職を辞して静かな生活を始める。  数年後、雪の降る日、若い感覚遺品整理士の女性が訪ねてくる。彼女も雪月花の感覚を保留にすべきか迷っていた。透は自らの違法な選択を語り、「美は生きている者の中で継がれる」と告げる。女性は決意を胸に去り、透は雪を見つめながら静かに思う──雪月花とは、生者の中でのみ完成する遺品であり、死者の美は記憶として受け継がれ続けるのだ、と。

Serialization Info

Web Novel

Service languages
Every Star
Every Star02/06/2026
  • Current雪月花の継承