Synopsis
【3話完結】
「三周遅れの古時計」
それが、社内での俺のあだ名だ。
かつて仕事で妻の死に目に会えなかった俺は、以来「定時退社・やる気なし」の無能を演じ、ひっそりと生きていた。
だがある深夜。
俺は忘れ物を取りに戻ったオフィスで、企画一課のエース・一ノ瀬凛の衝撃的な姿を目撃してしまう。
完璧主義で周囲を寄せ付けない彼女が、デスクの下で震えながら、赤く腫れ上がった自分の親指を噛み続けていたのだ。
極限のストレスで壊れかけた彼女に、俺は思わず差し出した。
「自分のを噛むな。……俺のでいいなら、貸してやる」
その夜から、俺たちは共犯者になった。
非常階段の踊り場。冷えた空気の中、俺の指を赤子のように吸い、噛む彼女。
それはキスよりも背徳的で、どんな言葉よりも濃密な「治療」の時間。
しかし、社内の陰謀が一ノ瀬を追い詰める時、俺は「無能」の仮面を脱ぎ捨てる。
これは、止まったままの時計を抱えた男と、孤独なエースが、互いの熱で新しい時間を刻み始めるまでの物語。
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