Synopsis
町の外れで、小さな靴屋を営む老職人。
夜になると彼は理由もなく目を覚まし、
暗い工房で靴を縫う。
革の感触、針の重さ、指先の痛み――
身体はすべてを覚えているが、
朝になると、彼は何も覚えていない。
目覚めると、
昨日まで途中だった靴が完成している。
自分がやったのか、誰かが来たのか、
彼自身にもわからない。
妻や隣人、客たちは首をかしげ、
やがて誰かが冗談のように言う。
「妖精さんだな」
その言葉は、
原因でも説明でもない。
ただ、その場に置かれた名前だった。
老職人は否定しない。
否定する理由も、確かめる方法もない。
妖精という言葉があることで、
彼は職人であり続け、
町は静かに安心する。
この物語に、
羽のある妖精は出てこない。
出てくるのは、
忘れてしまう手と、
忘れてしまうことを許す言葉だけだ。
妖精は夜に靴を縫わない。
朝、完成した靴のそばに、
人が納得するための場所として、
そっと座っている。
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