Synopsis
※本文のAbstractを日本語にしてそのまま持ってきてます
人工知能(AI)による労働代替が進展する中で、経済学的・政策的議論は主として所得補償や再分配(ベーシックインカム等)の設計に集中してきた。しかし本稿は、労働を単なる所得獲得手段としてではなく、他者からの承認(recognition)を媒介する社会的制度として再定義する。その上で、AIによる大規模な労働代替がもたらす本質的問題は「貧困」ではなく、「承認の制度的危機」にあると主張する。
本稿はまず、伝統的経済学における労働=負の効用という前提と、マリー・ヤホダの提示した雇用の潜在的機能論、ならびにヘーゲル的承認論との乖離を整理する。次に、定年退職を「労働なき社会」の先行的シミュレーションとして位置づけ、経済的に安定した個人であっても社会的役割の喪失によって実存的空洞化が生じうることを、既存の社会心理学的研究をもとに論じる。これにより、労働が現代社会において承認の主要な供給装置として機能してきたことを明らかにする。
以上の分析を踏まえ、本稿はAI時代における承認の再配分モデルとして、時間軸を導入した「労働の二段階移行モデル」を提唱する。第一段階では、ケアや工芸といった人間固有の非効率性や情緒的接触を含む活動を承認獲得の場として保護・強化することで、急激な価値観の崩壊を緩衝する。第二段階では、労働に結びついた有用性中心の承認から離れ、遊び、学習、芸術、共同的活動そのものを目的とする「存在の承認」へと社会的規範を移行させる必要性を論じる。
本稿の貢献は、AIによる労働代替をめぐる議論を所得問題から承認の制度設計へと転換し、経済哲学における「意味の配分」という新たな課題を理論的に定式化する点にある。
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