Synopsis

放課後の弓道場は、いつも静かだった。 城燈真にとって、それは唯一の“居場所”だった。 弓を引くたびに心のざわめきが消えていく。 世界が、無音になる。 その無音が、何よりも美しかった。 その日、矢を放った瞬間―― 「……すごい。」 背後から、低く、柔らかい声が響いた。 音。 燈真の眉が、わずかに動く。 「……誰だ。」 弓道場の入口に立っていたのは、見たことのない制服の少年だった。 金茶の髪が光を受けて揺れ、手には黒いケース。 「君の“間合い”が、美しいと思って。」 「……“間合い”?」 「音楽にもあるんだよ。弓を放つ前の沈黙——それは、演奏が始まる前の静寂に似てる。」 「……何を言ってる。」 「僕は柊一。今日から音楽科に編入したんだ。」 弓を持つ手を見つめる一。 「矢を放つ瞬間の“呼吸”、あれはまるで音楽のテンポだね。」 燈真は弓を下ろした。 彼の世界に、“音”が入り込んだ瞬間だった。

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Kakuyomu
Kakuyomu11/07/2025
  • Current音なき矢、響く弦