Synopsis
春。県立音楽高校の吹奏楽部に所属する篠原悠斗は、どこにでもいる平凡なチューバ奏者だった。
だが、ある日、部室に響いた一音が、彼の世界を変える。
それは、孤高の天才トランペッター――朝倉隼人の音。
張りつめた空気を震わせるその旋律は、美しくも痛々しいほどに澄んでいた。
誰にも心を開かない隼人。
彼が音に込める激情の理由を知りたくて、悠斗は何度も彼に近づこうとする。
冷たく突き放されても、夜の音楽室でひとり吹く姿を見ても、その距離を諦めることはできなかった。
やがて二人は、文化祭の特別ステージでデュエットを組むことになる。
反発と共鳴を繰り返しながら、練習を重ねるうちに、悠斗は隼人の孤独と傷に触れていく。
隼人のトランペットが叫ぶのは、亡き兄への罪悪感。
それでも音楽を捨てられずにいる彼の背中に、悠斗は寄り添うようにして自分の音を重ねた。
「俺は、君の音が好きだ」
――その言葉が、隼人の閉ざされた心を溶かしていく。
雨の夜、初めて触れた唇。
夏の終わり、共に見たステージライトのきらめき。
音を通して結ばれた二人の想いは、やがて恋へと変わっていく。
しかし、隼人の身体を蝕む病が、その関係に残酷な影を落とす。
迎えた最後の演奏会。
悠斗は、隼人のためにチューバを吹き切った。
隼人の音が途絶えても、悠斗の胸の奥には、あの青い残響が鳴り続けている。
それは、ふたりで奏でた“約束の音”。
誰にも届かなくても、世界のどこかで、いまも微かに響いている。
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