Synopsis

アストリアは、空に浮かぶ森と草原の村だった。風が生まれる谷、星が降る丘。人々は空に語りかけ、風に名を呼ばれることで大人になった。 トレインもまた、いつか己の名を、空に刻むことを夢見ていた。 ギルド試験“風裂祭”は、ただの力比べではない。 天空の流れを読み、漂う島々を渡り、失われた言葉を拾い集める、古き誓いの儀式。 スカイタウンに集う若き挑戦者たちにとって、それは「風と契約する」ための初めての“空の航海”だった。 村の長老ダリオンは、かつて“空を渡る者”として名を馳せた伝説のスカイランナーだった。 老いてなお鋭いその眼差しは、トレインに多くを教えた。 風の呼び方、空の罠の見抜き方、そして、何よりも「耳をすませること」。 「風は声を持っている。だが、聞こうとしなければ決して語らない。 空に愛されたければ、まず自分が、空を愛せ」 その言葉を胸に、トレインは何度も村の外れの断崖へ足を運んだ。 夜ごとに吹き抜ける高空の風に、名もなき星のきらめきに、彼は小さな誓いを立て続けた。 だが、世界は静かに、確実に、崩れ始めていた。 帝国ヨルムンガンド──氷の王座に君臨するガーランドと、オシリスの神核を掲げるその軍勢は、既に四つの大陸を掌握し、神の庭に血の色を滲ませていた。 自由の地ヴェントゥスもまた、例外ではなかった。 帝国の飛行艦隊が空の霧を裂き、漂流島の上空に影を落とし始めたのだ。 大陸中枢の浮遊都市群では、目に見えぬ「占領」の兆しが静かに進行していた。 それでも、アストリアの村人たちは信じていた。 風が、まだ彼らを守ってくれることを。 空は、誰のものでもないということを。 ある日、断崖の上に佇むトレインのもとへ、吹きすさぶ風に乗って奇妙なささやきが届いた。 「──忘れられた時間が、風の中に眠っている」 それは、すべての始まりだった。 風裂祭のために旅立とうとするトレインの前に、 名もなき死者たちの声が、風とともに蘇りはじめる。 そして彼は、まだ知らなかった。 自らが拾い上げる一片の“言葉”が、 やがて十二の大陸すべてを巻き込み、世界そのものの運命を紡ぐ糸となることを。 ──これは、忘れられた記憶を拾い、 まだ見ぬ未来を切り開く者たちの、物語である。

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