Synopsis
僕――宮下颯太(みやした そうた)が「普通じゃない」と気づいたのは十二歳の頃だった。
テレビに映るゲイタレントを見て、母が何気なく「嫌ね」とつぶやいた。その一言は刃のように胸に突き刺さった。
小学六年生の僕は、すでに同性に惹かれる自分を自覚していた。けれど、それは決して人に知られてはいけないことだと気づかされた。僕の人生に恋は必要ない。そう決めた。
それからの僕は、「普通」に見えるよう必死に努力した。小学校の卒業前、タイムカプセルに「好きな人の名前」を書こうという話になったときも、本当の想いを隠し、適当に女の子の名前を書いた。
中学では周囲に馴染むため、好きでもない子と付き合い、高校に入ってからも友人の恋愛話に合わせて「普通」を演じた。
けれど、ぬいぐるみの「ぬん太郎」だけは違った。物心ついたときからそばにいた柴犬のぬいぐるみは、ある日からまるで命を持ったかのように話しかけてきた。
「ソウタは恋がしたいだぬよ」
僕は否定する。
恋をする資格なんてないと。けれどぬん太郎は笑って「どうせゼロなら、とりあえずやってみるだぬ」と背中を押した。
そんな高校二年目の春、購買で小銭をばらまいた一年生の男子と出会う。小柄で柔らかい印象を持つ顔立ち。落とした百円玉を渡したとき、指先が触れただけで胸が高鳴った。
彼の名は奏蓮(かなで れん)。その日から僕の世界は、少しずつ変わり始めた。
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