Synopsis

ブライド・トゥー・ビー ― シェフ・パティシエ

オーブンの灯が
静かに胸骨をあたためる
バターは夜の端で息をし
金網は星座みたいに冷える

計量カップの目盛りは
迷いのない梯子
一段ずつ粉が降り
心拍と同じテンポで混ざる

あなたは言う——
「花嫁の一口で、泣ける菓子を」
その一文が
砂糖より速く溶けていく

レモンの皮を削るたび
台所に朝が増える
白いヴェールはチョコの温度でそよぎ
塩の星が 最後の輪郭を置く

鏡面のグラサージュ
湿度の針にかすかに震え
失敗の割れ目に
未来の線が一本 光る

泡立て器は
不安と希望を同時に掬い
指先の記憶を信じろと
艶の底で囁く

導く二
担う六
祈る二
厨房にも風の見えない支えがある

砂糖細工の塔が立ち
客席の呼気で揺れるたび
誓いの香りが輪になって広がる
クローブ ベルガモット バニラの余韻

ナイフが入る瞬間
時間は薄いガラスになり
砕けない音だけが
会場に満ちる

誰かの瞳の端に生まれた涙を
計量できはしないけれど
その塩分を知っている——
星一粒ぶんの確信として

世界一という名の
新しい材料を受け取り
次の一口へと火をつける
朝一番のオーブンの空気で

粉砂糖の雪が降り
予約の列が湯気になる
あなたの指に
砂糖のリングが静かに触れる

そして私はまた計る
温度 重さ 距離
涙のきっかけと
笑顔の余白を

ブライド・トゥー・ビー
まだ見ぬ誰かの誓いの前で
小さな塩の星を
そっと 最後に置くために。

Serialization Info

Web Novel

Service languages
Alphapolis
Alphapolis08/19/2025
  • Currentブライド・トゥー・ビー ― シェフ・パティシエ