Synopsis
山名栞は、俳優志望の二十一歳だ。しかし、養成所を出た後も所属する事務所はなく、演劇の街、東京・下北沢のカフェで、アルバイトをしながらアパートで暮らしている。たまに受けるオーデションもうまくいかない。そんな日々が三年続いていた。
ある晩、深夜番組で養成所の同期だった安藤麻里恵の活躍を見かけ、強烈な嫉妬を覚える。
数日後、ルームメイトの児玉梢の代役で出かけたドラマのエキストラのバイトで、ゲスト主役で来ていた安藤麻里恵と皮肉にも再会し、その歴然と開いた差に惨めな思いをする。
そのとき味わった悔しさをきっかけに、若手監督・倉田和也のワークショップに参加した栞は、全力で取り組み、再び演技することの原点に戻ることができた。打たれ強く、演技が素直なところを倉田に認められた栞は、小さなインディーズ映画『ひとつだけ多い朝』に初主演が決まる。栞は、その作品を通して演じる喜びを改めて知った。
一方、インディーズ版の公開が近づく裏で、同作品のメジャー映画版の企画が動き出していた。当初それは、本来撮影する作品に穴が空くために大手映画会社のバックアップ案の一つだった。
企画が進行するにつれ、新人監督・倉田の意向は反映されることなく、インディーズ版のスタッフやキャストは外されていく。映画公開の喜びの中、ネットニュースで、メジャー版では自分が外されたことを突然知り、栞は激しくショックを受ける。初めて愛した『役』を大きな力に奪われた悲しみは大きかった。
また元の日常が戻ってきた。失意の中、栞はインディーズ版を見た小さな俳優事務所にスカウトされ、その事務所で一からやっていこうと決意する。
その頃、メジャー版の主演に決定していた人気女優のスキャンダルが世間を賑わせ、映画の製作が危うくなってしまう。代役選考が難航する中、監督の倉田は、ギリギリのタイミングで、栞を再度主演にすることを映画会社に持ちかけるが、前途は多難だった──。
相手役の井上光は人気ロックバンドのボーカルで演技未経験者であった。天才肌のミュージシャンでプライドの高い井上は、映画に対して前向きに取り組まない。監督や他のキャストともうまくいかない。栞は間に挟まれ右往左往する羽目になった。
極寒の北海道ロケは目の前に迫っていた……。
(公開中の同名タイトルの原稿を大幅に修正したver.2.0です。こちらを読んでくださると嬉しいです)
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