Synopsis
家族に見捨てられ老人ホーム行き… まさかの1億円当選!私は言った「誰にも1円たりとも渡さない」
『誰にも渡さない』
冷めた茶碗蒸し
味のないおかゆ
そのひと匙ごとに
愛情の温度が下がっていった
「お母さんには、ここが一番」
そう言って差し出された
老人ホームのパンフレット
――まるで手渡された
終点駅の切符のように
埃の匂いが染みついた
この家は
私の歳月と 涙と 夢の置き場所だった
段ボールの中に詰められたのは
モノじゃない
私の「過去」そのものだった
でも ある日
ふと手にした 1枚の紙片
夫と笑って買った 習慣の名残
ざらついた宝くじが
手の中で 運命の鍵になった
1億円――
その数字が目に飛び込んだ瞬間
心臓が跳ねた
でも最初に来たのは
喜びではなく、怒りだった
今さら甘い声で寄ってくる
その舌の裏に潜む打算の匂い
耳障りな「お母さん大好き」
胃がきしんだ
「誰にも、1円たりとも渡さない」
私はそう言った
震える声で でも確かな意志で
自由って こんな味だったか
温かいスープの香りに
ふと 涙がにじむ
古い友と交わす笑い声に
私は もう一度
“私”になっていく
忘れない
見捨てられたあの痛みも
愛を期待してしまった自分の弱さも
けれど
私は生きる
1億円の重みより
この意志の重みを 抱いて
これは復讐ではない
救済でもない
これは、私の「始まり」だ
誰にも渡さない
私の尊厳も
私の人生も
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